夫が突然亡くなったので、夫の口座から生活費を引き出そうと思ったら、口座がロックされていて出金できなかった。
このようなご相談を受けることがあります。
それでは、妻が夫の預貯金の払戻しを受ける方法はないのでしょうか?
以下の事例を考えてみましょう。
夫が甲銀行に600万円、乙銀行に300万円、丙銀行に1200万円の預金を残して亡くなったので、妻は各銀行の口座から生活費を出金したいと考えている。夫の相続人は妻と子である。
最高裁平成27年(許)第11号同28年12月19日大法廷決定は、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判断しています。
この最高裁決定によれば、妻と子の遺産分割協議が成立するまで、各銀行は預金の払戻しを拒否することができ、妻は夫の口座から生活費を出金できません。
このような不都合を避けるため、新たに預貯金仮払いの制度が設けられました(民法909条の2)。
この制度は、遺産分割協議が成立していなくても、各相続人が単独で、預貯金の3分の1に法定相続分を乗じた額の払戻しを受けられるというものです。
計算式:預貯金×1/3×法定相続分=単独で預貯金の払戻しを受けられる額
但し、払戻しの上限は、金融機関毎に150万円となります。
上の事例では、妻の法定相続分は2分の1、子の法定相続分も2分の1であるため、妻も子もそれぞれ単独で、甲銀行から100万円、乙銀行から50万円、丙銀行から150万円の払戻しを受けられます。
計算式
甲銀行:600万×1/3×1/2=100万円
乙銀行:300万円×1/3×1/2=50万円
丙銀行:1200万円×1/3×1/2=200万円→上限150万円まで出金可
この預貯金仮払いの制度を使えば、亡くなった夫の口座がロックされていても、金融機関から預貯金の払戻しを受けられます。
払戻しを受けるのに必要な手続や書類につきましては、各金融機関にお問合せください。
垂水駅前法律事務所 弁護士 松岡英和