今朝、法務省が保釈制度見直しの検討に入ったとの報道がありました。
カルロス・ゴーン被告の逃亡により我が国の司法制度が愚弄されたという憤りと、レバノン政府が彼を日本に引き渡す見通しが立たないという焦りが、法務省を突き動かしているのでしょう。
その心情は理解し得なくはないですが、だからといって、保釈中の被告人にGPS機器を装着させるという案が出てくること自体が、とてつもなく恐ろしいと感じます。
刑事訴訟法90条は、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」と定めています。
保釈中の被告人にGPS機器を装着するという行為は、裁判所が「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度」が大きいと判断して被告人の保釈を認めたにもかかわらず、保釈後の被告人に「健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益」(とてつもなく重大な不利益)を課すに等しいと言わざるを得ません。
GPS機器により行動や所在を常に把握され得る状態に置かれた被告人に、「健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益」を回避する術などあろうはずがありません。
罪証隠滅や逃亡のおそれについては、裁判所が保釈の許否を決める際に慎重に判断すれば足りることです。要は、個別の事件に関する判断なのです。
現に、保釈が認められた被告人の大半が、罪証隠滅や逃亡をしていないはずです。そのような現実を無視して、保釈中の被告人全員に対して保釈後の罪証隠滅や逃亡のおそれを論ずるのは、あまりにも乱暴です。
保釈中の被告人の罪証隠滅や逃亡を防ぐために弁護士や被告人の親族がこれまで以上に積極的に関与することも不可能ではないでしょう。
保釈制度見直しの詳細は今後明らかになってきますが、保釈中の被告人に一律にGPS機器を装着するというのであれば、それはもはや暴挙です。
仮に、逃亡のおそれが高い被告人に限りGPS機器を装着するという立論であったとしても、刑事訴訟法においては、逃亡のおそれが高い被告人の保釈をそもそも認めていないわけですから、「逃亡のおそれが高い保釈中の被告人」という設定自体が論理の破綻を来しているわけです。
このように、法務省が検討している改正案は、看過できない重大なリスクをはらんでいます。
我が国の司法制度に対する信頼を守るための手段として、被告人の人権に対する不当な侵害が許容されてはならないのです。
皆様にも、法務省の保釈制度見直し案のリスクを十分ご理解いただき、今後の改正案の動向を注視していただけたら幸いです。
垂水駅前法律事務所 弁護士 松岡英和